では腹診と鍼灸の関係はどうなのだろうか?もちろん機運としては盛り上がってはいたが、オリエント出版社の『日本漢方腹診叢書』正・続が出版されたことが大きい。何故ならば写本の研究なしに腹診の研究は進まないからである。その辺りの事情を理解していないとこういう叢書は企画しにくい。で、この叢書の仕掛け人はというと谷田氏である。
もう一つこの叢書で導入されたのが、腹診の分類である。腹診における「難経系」「傷寒論系」「折衷系」という分類は1960年当時腹診研究の大家であった大塚敬節先生によるものである。ただこの分類は叢書の名前が示す通り、薬(=医師)の視点から見たものであり、鍼灸系の知識不足が目立つ。これではまずいということで反応されたのが篠原孝市先生で、先生の分類である「鍼灸系」「古方系」「非古方系」の方が現実的である。先生は同論考(医道の日本 849号)の中で鍼灸と腹診について一刀両断にしている(笑)
例えば「経絡治療では早い時期から、江戸期の鍼灸書や古方派の腹診書に基づく臨床応用が試みられたが、経絡診断という診察の目標が過去の腹診の応用を困難にした。江戸期の鍼灸や湯液の古典の中で経絡診断につながる腹診など皆無だったからである。」といった具合なのであり、岡部素道先生も自著『鍼灸経絡治療』に「腹診によって治療のための経絡・経穴を分配することはできない。」と述べている。
もうお分かりだろうか。そもそも日本独自であるが故に、中医学理論に翻訳出来ないのが腹診であり、それを元に施術をおこなうのが打鍼である。経絡・経穴という当たり前の中国理論を捨てなければ、日本鍼灸の本質は理解できない。
結局、前述の篠原先生の論考では「鍼灸系」の内の中世から近世初期の無分流、意斎流、多賀法印流の腹診と「非古方系」腹診の大元の実践理論は示されずに終わったが、それこそが我々が共同研究している無分翁の奥義、無分の真伝に他ならないのである。
]]>今年は近年オークションなどでの価格がとんでもないことになりつつある、日本産のウイスキーの在庫を放出致します。
まずは「駒ヶ岳 Sherry & American White Oak 2011 Wine Cask Finish」は、マルス信州蒸溜所で蒸溜され、シェリーオークとアメリカンホワイトオークで熟成させたモルト原酒を、マルス山梨ワイナリーで使用した赤ワイン樽に1年以上追加熟成(フィニッシュ)したシングルモルトウイスキー。生産終了品です。
もう一つはニッカウイスキー宮城峡蒸留所で限定販売されているシングルモルト。元々は12年として販売されていたものが、終売を経てノンエイジ仕様(おそらく8-10年熟成という印象)で復活したものです。
シェリー樽熟成原酒の個性を主体としたシェリー&スウィートというコンセプトボトルで、いつ終売になってもおかしくないボトルです。
今年も太っ腹でしょ(笑)
]]>自ら能楽と合気道を実践する思想家の内田樹が、各界の所作の達人達と語り合った対談集。
茶道家、能楽師、文楽の人形遣い、合気道家、治療家、尺八奏者、マタギ等 職種は様々でも近代までの日本人は同じ身体運用法を持っていたことがわかる一冊。
今の伝統的な鍼灸には伝統などないのは確かだが、伝統である以上昔の治療を再現しようと思えば、このような身体操作は要求されることになる。治療のための理論より、結果を導きだための身体をまず作れということになるが、このような教育方針の専門学校は聞いたことがない。
『バガボンド』の作者、井上雄彦との対話の中で「ずいぶん武道の伝書は読みましたけど、『バガボンド』はそれに列するレベルだと思う。武道を志す人には、全部ここに描いてあるから、黙ってこれを読め。」という件が興味深い。
ともかく自分の求めているものがわからなくなっている人には、価格もリーズナブルであるし、一読をお勧めする。
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このような比較文化論が医学史にスポットを当てて行われることは、非常に画期的です。このようなグローバルな視点をなしに日本伝統医学を規定しようとしても無理だという企画者の熱いメッセージをライブで聴いてみませんか?
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東方學會第62回ICES「漢字文化圏の醫療と自國化」
日 時:2017年5月19日(金)
会 場:日本教育会館(8階 地下鉄神保町駅A1出口徒歩3分)
參加費4000円(懇親会費込み、学生2000円)
<趣旨>
漢字文化圏の中國・日本・韓國・北朝鮮・ベトナムでは、中國式の生藥や鍼灸による傳統醫療・醫學が現在も存續し、歐米の一部でも代替醫療として採用されている。漢字文化圏の傳統的自然科學としては例外といっていいだろう。しかし各國とも中國の古典籍を主な論據とするため、そうした醫學的側面だけに注目し、中國以外は亞流とみなされることもある。
他方、各國の料理には中國起源の味噌・醤油・豆腐・麵・箸が共通するものの、われわれは別個の料理として賞味している。各國料理には共通食材もあるが、風土・?史・文化など人文地理的要因に根ざす味覺・美感などの相違が嚴然と存在するからである。
そこで醫療の側面に注目すると、各國それぞれの臨床經驗にもとづき自國化をなしとげてきた?史がみえてくる。ゆえに現代まで存續してきた、ともいえよう。當然その背景にある人文地理的要因や、體質・疾病相などとの關係も考察の對象となる。箇箇の醫學的要素のみならず、醫療としていかに自國化がなされたのかを漢字文化圏で比較するならば、かつて未知の現象が視野に入ってくるかもしれない。
本パネルでは如上の預想ないし期待にもとづき、日本・朝鮮・ベトナムにおける醫療や醫學の自國化について、最近の研究成果を發表いただく。また各發表に各一名のコメンテイターを配し、議論の幅をひろげるとともに、今後の發展につなげたい。
<プログラム>
總合司會:武田 時昌(京都大學)
10:30−11:10 Introductory Remarks 武田 時昌(京都大學)/真柳 誠(茨城大學)
11:10−11:50 日本近世?泉醫學の展開と湯治の變容 鈴木 則子(奈良女子大學)
11:50−12:00 コメント 鈴木 達彦(帝京平成大學)
12:00−13:00 Lunch Time
13:00−13:40 明代醫書の斷章取義がもたらした日本鍼灸の變容 長野 仁(森ノ宮醫療大學)
13:40−13:50 コメント 猪飼 祥夫(龍谷大學)
13:50−14:50 ?藥から東醫へ−前近代韓國醫學史における固有の醫療傳統からみた自己認識の發展− 申 東源(全北大學校) 通訳 任 正爀(朝鮮大學校)
14:50−15:00 コメント 任 正爀(朝鮮大學校)
15:00−15:20 Coffee Break
15:20−15:50 ベトナム醫學の傳統と特徴 真柳 誠(茨城大學)
15:50−16:00 コメント 小曽戸 洋(東京藥科大學)
16:00−17:00 總合討論
大会詳細:http://www.tohogakkai.com/ICES-program.html
いわゆる日本漢方の腹診所見に沿って、その所見が現れるメカニズムを解剖学・生理学・免疫学的事実に基づきMRI画像、CT画像、超音波エコーを使って解明しようとする試みである。
自身が発行した東洋医学会の標準テキストに疑義を唱える部分も随所にあり、そのような意味において画期的。考察の出発点になった事実には鍼の刺鍼も含まれていて非常に興味深い。
なお、近日中に臨床的な接点については某学会誌の書評に執筆する予定です。
なおこの本はアマゾンでは注文ができなく、直接に出版社のHPから購入可能です。
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ともあれ受賞おめでとうございます。
腹診というと漢方の論文と思われる向きも少なくないと思いますが、この論文の価値は、日本の伝統医学を考える上では非常に重要な論文です。打鍼をとってみても御薗意斎以前の無分流のロードマップを決定する上では、現在この論文以上のものはありません。
先程日本の伝統医学を考える上で非常に重要なと書きましたが、腹診をしているから日本漢方は中医学とは違うというような狭い意味だけではなく、腹で診断して腹で治すという考え方は、中国伝統医学に特徴的な経絡・臓腑という概念を導入しなくても治療可能な体系があったことを示唆しています。
これらを日本の伝統医学と言わずして、何を日本の伝統医学というのでしょうか?他の理論は中国医学のコピーであることを逃れることはできませんから、いくら主張したところで中国人に理解できるとは思えません。
ただ日本では自前で素晴らしいものがあるのに、日本人が主張すると無視されるという悪い伝統がありますので、長野先生の受賞をきっかけにこの体系がメジャーになってもらいたいです。
邪正一如も含めた腹で診断して腹で治すという考え方こそが日本伝統医学を表すキーワードなのです。
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我々もほぼ1年くらい掛かりきりであった、打鍼の発表をなんとか行うことができました。口頭発表になってしまったため、パワーポイントから全てを英語で作らなければならず、直前2か月ぐらいは大変苦労しました。
英文タイトルが「Introduction of the Traditional Japanese Acupuncture Dashin」という少し地味なタイトルでしたが、内容はお約束した通り、打鍼の開祖とされる無分翁の奥義に迫ったものです。文字の解釈や観念論ではなく、打鍼という技術をいかに再現して復活させ、臨床として完成させるかということが最終目的地です。
あの発表だけを聞いていると、内臓を挙げているだけと思われる向きもあるでしょうが、文字通りIntroductionであって、今回時間の関係で触れることのできなかった、内臓の升堤を持続させる方法や夢分流以前の古典に散見する無分翁の真伝の記述、詳しい手順、腹診も含めた主流派ではない各種療法との相関などは引き続き発表していく予定です。
当時最高の学僧であった沢庵宗彭が自分の病気を治すために薬ではなく鍼を選択した理由、その後没落したとはいえ、霊元法皇を生涯にわたって介護した技術(その功績によって二条通から松原通までの御土居(おどい)地を、御薗意斎(四代常倫)が個人で取得できたこと)のベースに打鍼があるという事実が、その本質を示しているものと思います。
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10月頭の状況は参加者1400名を超えているということで、当初の予定の倍の参加になっているようです。
HPも混乱しているようで、当初ランチョンセミナーは一つの予定だったと聞きましたが一つ増えています。公式にはアナウンスがまだないようですが、混乱が予想されるためか、当日受付も送られてくるであろうバーコードで機械で受付になりそうです。
つまり対面受付はありません。
伝統鍼灸学会でも当日入会して割引で、当日参加という裏技はできなくなりましたので、ご注意ください。
公式ページの情報もちょくちょく変更されているようですので、まめにチェックしてみてください。
後期申込みはまだ間に合います(〜10/20まで)会員料金(JSAM/JTAMS)ならまだ40,000円で大丈夫です(笑)
学生さんは10,000円(〜10/20まで)です。
まあいつになく日本人が盛り上がっているのは間違いなさそうです。
]]>そのような本物でなくとも、時々資料の中から口伝らしきものが見つかることもある。ただし現状では、見つかっている資料の全てがテキスト化されている訳ではないので、ネットでパパッと検索して終わりという訳にも行かず、修行の如く地味な作業が必要となる。
話は変わるが今、長野先生が国家プロジェクトの一環として、京大富士川文庫のデジタル・アーカイブス化を推進されているそうで、数年後には、オリエントで復刻済みの本も含め、かなりの古医書がオールカラーでダウン・ロードできるようになるそうである。
さて、打鍼の本家であった意斎流の衰退は、本家に跡を継ぐ技量を持った子供がいなかった事が最も大きな理由だが、何かの拍子に後裔者がいなくなった場合に、口伝に頼っていると全てを失ってしまう事を示唆しているように思える。
意斎流を正統に受け継ぐ、森家に生まれた中虚(1670〜1746、初代道和から数えて四代目)が奥田、山本、藤木など意斎の弟子筋に師家の口伝を尋ねても確認できなかったという記述(『意仲玄奥』)からも、そのことはうかがえるのではあるまいか。
思うに正親町・後陽成天皇に仕えて鍼博士となり、沢庵宗彭と親交して、『陰虚本病』を出版した頃が、意斎流のピークだったのではないだろうか?1600年頃からわずか100年ほどで意斎(無分)の真意が伝わらなくなるのは、「盛者必衰の理」と言われるようにドラマチックな展開である。
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もちろん個人的には何人かお弟子さんも存じ上げているので皆無というわけではないが、皆さん日本人らしく控えめな方が多いので、もっと董氏奇穴を宣伝しても良いのではと密かに思っていた。
最近見つけた王智民先生は王泰龍老師から龍門鍼灸医術と董師正経奇穴療法を直伝された台湾出身の方で、この先生が董氏奇穴にたどり着いた経緯や日本の経絡治療との違いを書かれたブログはなかなか興味深く拝見させていただいた。
邱雅昌先生の『董氏奇穴実用手冊』を勧めているのもその通りだと思うし、新城先生に巨鍼を習いに行くなど、今まで接点がなかったのが不思議なくらいである。
これから董氏奇穴をマスターしようと思っている人にはとても参考になると思う、ぜひ一読されたし。
http://gogo-e-hari.com/blog/category/tousikiketu/
]]>でも学生さんは、最初から10/20まで1万円で登録できるからお得ですよ。
大会の終了後に東京で行われるポストカンファレンスを申し込んでも8/4までなら3万円ということですね。ポストカンファレンスは日本人でも参加できます。
大御所の先生はもちろんですが、自分の学校では教わる機会がない、船水先生、光澤先生、手塚先生、鈴木先生などの実技があるのも伝統鍼灸学会のセミナー以外ではここだけです。
日本も全日本鍼灸学会と伝統鍼灸学会の全てが見れる機会はあまりないですし、それにプラスして世界の鍼灸も間近に体験できます。これを通常の学会参加費と比較して高いと言っても意味ないのではないでしょうか?学生さんは相当優待されてますよ、ホント。
参加だけでしたらまだ10月まであるので、じっくり考えてみることをお勧めします。
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でも締め切り近くで駆け込みがあったようで、現在は既に1000名を超えているようです。
演題の方もほぼ定数に達しているようなので、主催者はとりあえず一息というところでしょう。
大会の終了後に東京で行われるポストカンファレンスは有料ですが、日本人でも参加できます。現在は日本人、外国人半々でまだ空きはあるようです。
内容は公式ページにもupされていますが、形井先生、戸ヶ崎先生、森川先生の大御所の他にプロモーションビデオに出演(?)していた船水先生をはじめ、光澤先生、手塚先生、鈴木先生などがサポートされるようです。
何だかんだいって、やはり日本も総動員体制になってます。高いお金を出して世界に行かなくてもある程度は世界の鍼灸の実情は知ることができますし、参加しても損はないのではないでしょうか?
そうそう、3万円の中には昼食代、コーヒーブレイクのお金も含まれていますよ。
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本書にはすでに失われた佚分を豊富に引用しており、明堂訣式・鍼灸集書・凌氏針書・竇氏針書に加え最後に記載されている内景図は欧希範五臓図であり、文献として価値が高いと言われているのも頷ける。
中でも中国の鍼灸の大家である竇漢卿から大きな影響を受けていると言われている凌雲は、明・清の医書には引用がほとんどなく、現在流布している鍼灸書はほとんどが後人の偽作らしい。真贋がはっきりしているものは、『循経考穴編』の厳振が引用した『経神集』(おそらく凌雲の鍼書)と『経絡考略』の子午流注に関する引用くらいであるらしい。
『循経考穴編』の全文テキストは中倉先生がupされているので、こちらから
新HPのブログはコメントが書けないので、業界ネタは気が向いたときにこちらで更新するつもりですので、お付き合いいただければ幸甚です。
]]>「鍼灸祭」は、東洋の学術文化の普及活動をする財団法人斯文会が主催し、秋の「神農祭」と並んで湯島聖堂の行事として実施されています。「鍼灸祭」は鍼灸関係各方面の協賛金で運営しておりますが、個人の診療所・治療院でも協賛出来ます。詳しくは鍼灸祭事務局(ポスター下部にメールあり)にお問い合わせ下さい。
また、今年も式に先立ち12;00〜13:00まで、聖堂の奥にある神農廟を特別に拝観する事が出来ると思います。ぜひご参拝下さい。
当日は
13:00〜神田神社神官による祭礼
14;00頃〜特別講演2題(参加費500円)
16:30頃〜懇親会(懇親会費3500円 当日先着順受付)
という予定で、
今年の特別講演は、第1回目にもご登壇いただきました北里大学東医研 医史学研究部部長の小曽戸洋先生にお願いしております。内容は、「鍼灸序説ー私の天地人」で、最近大修館書店のあじあブックスから、『針灸の歴史』を上梓されましたのでそれに即した内容かと思います。個人的にはこの手の本の日本針灸の紹介で、三輪東朔が写真入りで出たのは初めてじゃないかと、マニアックに喜んでおります。
後半の実技講義は東京九鍼研究会の間先生がいよいよ担当されます。内容は「火鍼の解説と実際」という事でお楽しみに!
また例年鍼灸祭の前の月例参拝日の15日(今年は金曜日です)に、浅草寺の五重塔にある鍼灸関係物故者の回向を行っております。参加されたい方は事前にTwitterで日時を確認して下さい。
恒例の懇親会の鍼灸祭モルト同好会(非公認)の持ち込みボトルの予習(笑)は、この次にブログでup致します。
]]>【会場】 日本医学柔整鍼灸専門学校 (JR山手線・西武新宿線「高田馬場駅」5分、東京メトロ東西線「高田馬場駅7番出口」1分)
【講習費】 ①/75000円(一般)・70000円(会員) ②/25000円(一般)・20000円(会員)
【年会費】 10000円(当研究会の正会員となります。特典:受講料・出版物などの割引・会報の配布など)
【講師】 石原克己・加藤且実・小池俊治・関信之・中倉健・間純一郎・福島哲也・山下伸一郎・山本涼
年間スケジュールも出ておりますが、研究課の情報を少しだけ。
今年度は外部講師の特別講演は1件だけ予定しております。他は九鍼研究会の講師の治療法を開陳して欲しいという要望がありましたので、その方向で構成を進めております。
特別講演は人前に出るのを嫌がっていた、市井の名人、齋藤友良先生をお呼びする事になりました。
テーマは「打鍼と按腹」(仮題)という事で、事前に有志を集めてデモをして頂きましたが、その技に目から鱗が堕ちる事はまちがいありません。私的には一押しです。齋藤先生には8/2の研究課でご講演いただく予定です。ご期待下さい。
興味がある方は『医道の日本』2011年12月号の関節リウマチと鍼灸治療の特集号に、「関節リウマチなどに対する打鍼を中心とした鍼灸治療」というタイトルで論文を書かれています。タイトルこそ関節リウマチですが、本質がそこにはない事は読めば分ります(笑)『医道の日本』もこれをよく載せたなと思っていたら、編集者のたってのお願いで論文を書かれたそうです。
実は重大ニュースも入ってきたのですが、それはまた次回の更新で。
脈は右の関上、尺中に力がなく、腹診は火、土の虚。頚入穴は胃経と大腸経が堅かったため、システムの判定でも奇経が疑われたので、奇経を使う事にしました。
奇経は太衝、通里他は足三里、上巨虚、巨闕、期門を使用。頸、腕、肩は活法で調整、頸はC4、C6を中心に調整しました。
これでしびれはなくなりましたが、指はまだ少し違和感があるとおっしゃるので、左蠡溝に鍉鍼を触れてから指を動かして頂くと痛みもなくなり、1回で終了としました。
何度かお知らせしている、日本伝統鍼灸学会の創立40周年記念大会で記念品として出版する『難経集注』は、江戸時代に出版された本ですが、なぜか『難経』の底本となっている本です。
江戸時代に出版された本が、中国医学古典の底本になるなんて不思議ですが、書誌学的にはとってもおもしろい理由があるのです。
そもそも『難経』は昔の人達にとっても内容が難しかったらしく、他の古典医書より早くに注解書が出来ていました。最も古い注は三国呉の太医令呂広の注本で、『素問』『霊枢』の注本でさえも出来るのはもっと後のことです。
『難経集注』の正式名称は『王翰林集註黄帝八十一難経』というのですが、呂広の後も唐の楊玄操、宋 の丁徳用・虞庶・楊康侯らの注文を収集して編纂したわけです。こういう便利な本が出版されると、当然最初の呂広注本などは使い勝手が悪いため出版されなくなります。
呂広注本の内容は全て『難経集注』に含まれていると考えられますが、無くなってしまうと比べることが出来ないので、本当の呂広注本の内容はわかりません。
また、『難経集注』が便利だった為に、北宋以前の他の注解書はすべてなくなってしまい、だんだんと『難経集注』の影響力が増して行きます。
こうして時代が下って行くといつの頃か、『難経集注』でさえ、字の間違いが少ない系列が中国には無くなってしまい、誤字脱字の多い系列の本しかなくなってしまいます。
ここで話は日本に移ります。
たまたま日本では字の間違いが少ない系列が出版されていて、それが今回記念出版される「慶安本」です。「慶安本」自体も刊行後、版木が火事で失われてしまうために、少部数しか残らないということになってしまいます。
もちろん単行の注解書であれば、宋代の注解や、『難経本義』など「慶安本」より古いものはいくつか存在しますが、『難経集注』としては「慶安本」が最も良い底本となってしまうのです。
評議員の先生からは『難経本義』も一緒に出しては?というご意見を頂いたのですが、今回は実現しませんでした。私も本音は出して欲しかったのですが…。
ざっくりと「慶安本」の意義を書いてきましたが、大会中が通常価格より安く買えます(会員なら最も安く買えます)ので、購入を検討されている方は、ぜひ大会開催中(10/27〜28)に会場でお求め下さい。
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